現在、日本はアジアでトップクラスの薄毛大国です。日本人男性の25%~30%が薄毛で悩んでおり、そのうち7人に1人は自殺を考えたことがあるというほど。
そんな男性の薄毛原因の9割が遺伝だというのです。
遺伝が原因だとしたら、頭皮環境を守ったり生活習慣を整える努力がすべてムダになってしまうのでしょうか。
この記事では、はげの永遠のテーマ『遺伝でハゲる仕組み、薄毛の両親や祖父母の隔世遺伝、遺伝子でハゲた人の対策』について紹介していきます。
目次
薄毛と遺伝子の関係の噂を科学で解明
2005年、ドイツ、ボン大学のアクセル・M・ヒルマー博士とその研究チームが米誌アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマンジェネティクスに以下のような研究結果を発表しました。
”ハゲになる人のX染色体にある男性ホルモンのレセプター遺伝子に変異が確認された”
ハゲになる人は男性ホルモンのレセプターの感受性が高く、その原因がX染色体にあるというのです。
X染色体は母親からしか受け取らない染色体。つまり薄毛の原因遺伝子は、父親からではなく母親から受け継いだものだったのです。
しかもこの研究結果は、ひとつの噂に解答を与えてくれました。
それは「薄毛が隔世遺伝する」という都市伝説です。
はげの隔世遺伝が起こる原因
隔世遺伝の謎にせまる前に、遺伝のしくみについて説明します。
人の細胞の核には染色体というDNAの集まりが23対あり、その1対の染色体が性染色体と呼ばれ、男女で異なる種類を持ちます。
XY染色体
- 女性の持つ性染色体はX染色体が2本で構成された物
- 男性の持つ性染色体はX染色体とY染色体で構成された物
とされています。
子供ができるときは、1対の染色体を片方ずつ出し合うことで遺伝していくことになるのですが、男の子が生まれる場合、男性側からは必ずY染色体が供給されることになるため、X染色体は必ず女性側から受け継ぐことになります。
先述したヒルマー博士の研究によると、X染色体の男性ホルモンレセプター遺伝子がハゲない人とは異なったという結果が出ているため、薄毛の要因は母親からしか受けとらないということになるわけです。
父・母ともにハゲの遺伝子を持っている場合
両親とも薄毛遺伝子を持っている場合を例として考えてみましょう。
母親がX1-X2の染色体を持ち、父親がX3-Y1の染色体を持っているとします。
このうち、X2とX3が薄毛遺伝子を含んだ染色体という条件。
この両親から生まれる子供の染色体のパターンは4種類
- X1ーX3
- X1-Y1
- X2-X3
- X2-Y1
そのうち、薄毛遺伝子を持ったパターンは3種類
- X1-X3
- X2-X3
- X2-Y1
しかし、X1-X3とX2-X3の子供はX染色体しか持っていないため女の子だと言えます。従って、薄毛になる可能性が高いのはX2-Y1のパターンです。
祖父と祖母から薄毛の隔世遺伝の仕組み
さてここからが本題です。母親のX染色体も、元をたどれば祖父と祖母から受け継いだ物です。
先ほどのパターンでいうとX1-X3もしくはX2-X3になります。X3が薄毛遺伝子だということは、祖父がハゲている可能性が高いでしょう。

これが隔世遺伝のしくみです。
ヒルマー博士はこの研究結果に対し、
”薄毛に影響する遺伝子は他にも存在すると考えられます。必ずしもX染色体の影響のみによって薄毛になるかどうかは一概に決められない”
と言っています。
そう、ヒルマー博士が解明したハゲ遺伝子だけが薄毛の原因ではありません。実は、現時点で判明している薄毛遺伝子がもう一つ存在するのです。
ハゲの遺伝子は優性なので優先的に引き継ぐ!
もう一つの薄毛遺伝子は、5αリダクターゼの活性を司る遺伝子です。
男性ホルモンレセプターの遺伝子と違い性染色体に存在する遺伝子ではないため、両親どちらからも遺伝する可能性があるのですが、厄介なことに5αリダクターゼの活性遺伝子は高い方が優性の遺伝子なのです。
5αリダクターゼ活性!優性遺伝の恐怖!
優勢劣勢という言葉は聞いたことがあるかと思います。
同じ形質を司る異なる遺伝子を両親から受け継いだ場合、どちらか片方の遺伝子だけが発現するのですが、その際に優先的に発現する遺伝子を優性と言います。
5αリダクターゼの活性が高くなる遺伝子が優性ということは、両親どちらかがその遺伝子を持っていても必ず受け継いでしまうことになるのです。
では、5αリダクターゼが活性化するとどうして薄毛になってしまうのでしょうか?
次の項ではAGAのメカニズムを説明していきます。
遺伝によるAGA!悪玉男性ホルモンDHT(ジヒドロテストステロン)がハゲの原因
AGAの原因となるのは悪玉男性ホルモンと呼ばれるジヒドロテストステロン(DHT)。DHTが毛根にある毛母細胞の男性ホルモンレセプターに結合すると、脱毛因子TGF-βが産生されます。
TGF-βが脱毛を司るタンパク質FGF-5に伝達されると、FGF-5は速やかに脱毛指令を毛乳頭や毛母細胞に送り、髪が抜けてしまうのです。
FGF-5の脱毛指令
さて、そんなDHTを生み出す酵素が5αリダクターゼ。5αリダクターゼは、筋肉などの成長に欠かせない男性ホルモンのテストステロンの二重結合を切断し、悪玉男性ホルモンDHTへと変化させてしまうのです。
とはいえ男性ホルモンのレセプターの感度が高くなければ、DHTと結合を避けることができるかもしれません。しかし、ここで思い出して欲しいのが薄毛遺伝子です。
ヒルマー博士の研究では、薄毛遺伝子は男性ホルモンレセプター遺伝子に変異が確認されています。
そう、薄毛遺伝子は男性ホルモンレセプターが一般的なものよりも感度が高いのです。
最恐にハゲやすい遺伝子の組み合わせ
最悪なのは、5αリダクターゼの活性遺伝子と薄毛遺伝子の両方を受け継いでしまった場合です。
薄毛になる要素同士がお互いを高め合うことになるので、もの凄いスピードで薄毛が進行していくことになるのです!
とはいえ、髪の生える仕組みは解明されていない部分も多く、ヒルマー博士が言うように、これだけが原因とは一概には言い切れません。
ということは、遺伝子の影響を早期に知ることができればある程度の対策を取ることができるのかもしれません。
果たして、それは可能なのでしょうか?
薄毛遺伝子は調べられる!?どうやって調べるの?その費用は?
薄毛になる遺伝子があるかどうかを調べることは可能です。
AGA専門のサロンや病院(皮膚科もしくはAGA専門クリニック)で行うことができます。
抜け毛や口内の粘膜を摂取し、専門機関へ送ることになるため結果まではしばらく日にちがかかります。
費用は2~3万円。高いか安いかは本人次第と言ったところでしょうか。
節約したい、もしくはAGA専門機関へ行くのが恥ずかしいと感じた人は個人用のAGAの遺伝子検査キットの力を借りましょう。
自宅でサンプルを採取して専門機関へ郵送すると、2~3週間後に結果を見ることが出来るのです。費用は1万5千円弱。
最近では自分に適した成分を調合した育毛剤を提案してくれるところもあります。病院が不安なら、是非とも利用したいサービスですね。
遺伝によるAGAハゲ・薄毛を避けるための対策!
薄毛遺伝子を持っていたからと言って、絶対にハゲるとは限りません。
年を取ってからのハゲは我慢できますが、若い内からのハゲだけ避けたいところ。
そのためにも頭皮の健康には常に気を配り、薄毛になる可能性が高い行動は避けるようにしましょう。
睡眠時間にこだわる
睡眠時間をしっかりとると、成長ホルモンが分泌され髪の健康が増進されるのです。
成長ホルモンはタンパク質の代謝や細胞分裂を促進するのに必要なホルモン。
髪は毛母細胞の細胞増殖で成長するため、成長ホルモンの分泌は髪の太さや量にも影響があるのです。
午後10時から午前2時までの間は、成長ホルモンが分泌される貴重な時間で、この時間を逃すと髪にも悪影響を及ぼしてしまいます。
「絶対にこの時間でないとダメ」という訳ではありません。それだと夜勤の人は全員はげてしまいますからね。
大切なのはその日起きた時間から逆算して自分の生活リズムに合わせ、しっかりと睡眠をとるよう心がける事です。
シャンプーにこだわる
シャンプーに含まれる石油界面活性剤は頭皮に強い影響力を持っています。
洗浄力の強い界面活性剤は、頭皮の皮脂をすべて洗い流してしまうため、紫外線や常在菌による雑菌からの防御まで無くしてしまう恐れがあるのです。
朝シャンや1日に何度もシャンプーをするのはもっての外。これから一番紫外線を浴びる時間帯に、皮脂によるガードを取り払ってしまうわけですから、Tシャツ一枚で戦場へ赴くようなものです。
シャンプー選びのコツは、「硫酸」と書かれた成分を避けることです。市販のシャンプーのほとんどには「ラウリル硫酸ナトリウム」などの成分が含まれています。
非常に洗浄力が強いのが特徴なのですが、その分頭皮に与えるダメージも半端じゃありません。髪を洗うときは「天然成分」のシャンプーか「アミノ酸系」のシャンプーを選ぶようにしましょう。
食事にこだわる
血液が正常に流れていると、栄養は体中に回っていきます。血液がドロドロだと栄養は毛細血管の先の先までは潤沢に回ってはいかないのです。
血液中の中性脂肪濃度が高いと血液はドロドロになるため、栄養の回りは悪くなり、髪の毛に悪影響が出るのです。
髪は無くても生命活動に支障はないわけですから、ここから栄養の節約が行われるのは仕方がありません。
中性脂肪の元になるのは糖分です。糖分の取り過ぎには注意するに越したことはありません。
また、昔から亜鉛は髪にいいと言われています。亜鉛は、タンパク質の生産に関与している成分ですので積極的に取り入れましょう。
育毛剤にこだわる
育毛剤の力を借りることで遺伝に抵抗するのを考えてみまでしょう。
先ほど説明した脱毛因子TGF-βの産生を抑制するイクオスや、頭皮の環境を整えるもの、血行を改善するもの等、自分に合ったものを選んで使用することで生活習慣改善による薄毛予防を力強くサポートしてくれるでしょう。
以上のように遺伝に抵抗することで、若ハゲは防ぐことができるかもしれません。しかし万が一ハゲてしまった場合、遺伝の力にあらがうことが出来なかった場合は、諦めるしかないのでしょうか?
ハゲ遺伝vs人類 医薬品育毛剤最後の戦いが始まる!
あえて言います。人類の科学力は、すでに薄毛遺伝子の悪夢に打ち勝っています。保険外なので費用はかかりますが、遺伝による薄毛は改善が可能です。
しかもその手段はひとつではありません。片方がダメでも、まだ諦める必要はないのです。
もったいつけてしまいました。
それでは、遺伝に打ち勝つ人類の医学の粋を紹介しましょう!
フィナステリド(プロペシア)
薄毛遺伝子のひとつ5αリダクターゼ活性遺伝子は、脱毛因子を生み出す悪玉男性ホルモンDHTの増殖に関与。
だったら話は簡単です。5αリダクターゼを活性させなければいいのです。そこで、使用するのがフィナステリドです。
フィナステリドは飲むタイプの発毛剤で、5αリダクターゼの活性を阻害する効果があるのです。
5αリダクターゼが反応しなければテストステロンは通常の男性ホルモンのままですから、脱毛因子が生産されることもありません。
フィナステリドの効果は、厚生労働省の認可や日本皮膚学会の発表する薄毛治療のガイドラインでもAランクにランクインしていることから、期待に値すると言えるでしょう。
ただし副作用の発症率が高く生活に支障が出るレベルのものまでありえます。
育毛サプリ+育毛剤
同じく5aリダクターゼの活性を阻害する手段として育毛サプリ+育毛剤があります。
医薬品ではないので副作用がなく長期間使用できるのと、体への健康効果が期待できます。
フィナステリドで副作用が出た人や耐性がついた人におすすめの方法です。
自毛植毛
すぐに効果を実感したいのであれば、自毛植毛がいいでしょう。
以前の植毛は、人工的に作り出した人口毛を頭皮に植え込んでいたため、経年劣化等で頭皮に悪影響を与えることが多かったのですが、自毛植毛はその心配はありません。
何と言っても自分の髪の毛を移植させるわけですから、もし植毛した毛が抜けたとしても、また生えてくるのです。
つまり常に新しい毛に代謝していくのでメンテナンスがまったくいらないのも自毛植毛の強み。
自毛植毛は、自分の後頭部の毛を前頭部や頭頂部へ移植します。
それは、後頭部の髪の毛はAGAで抜ける心配が無いからです。その理由は、後頭部や側頭部の毛根に男性ホルモンレセプターが存在しないから。
レセプターがないのですから、いくらDHTが生産されようとも脱毛因子が産生されることはありません。そんな特殊な髪の毛を移植するのが、自毛植毛なのです。
ヒルマー博士が発見した薄毛遺伝子を持っていても、後頭部の髪の毛はレセプターが無いので何の影響もありません。さすがの遺伝の力も、影響を与えるものが存在しないのではお手上げです。
このように、人類の医療技術はすでに遺伝の力を上回っています。
ハゲてしまったからといって諦めてしまう前に、もうひと頑張りしてみてはいかがでしょうか?
遺伝とハゲの関係まとめ
薄毛遺伝子は判明しているだけで2種類あります。
- ひとつは男性ホルモンレセプターの感度を高くする遺伝子
- もう一つは5αリダクターゼの活性を高くする遺伝子です。
それでも心配なら遺伝子検査を受けてみましょう。遺伝子検査は病院やAGA専門機関で受けることができますが、キットを買えば自宅でも受けることが出来ます。
キットにサンプルを採集し、専門機関へ送るだけでOK。2~3週後には自分が将来薄毛になりやすいかどうかがわかるはずです。
遺伝の力は強力ですが、頭皮や血管の環境を整えることでダルビッシュの様に薄毛になるのを先延ばしすることもできます。
睡眠やシャンプー、食事にこだわり、育毛剤を使うことで効果が最大限に発揮されれば、歳を取るまでハゲないかもしれません。
遺伝に屈してしまった場合、副作用のリスクを背負えるなら医薬品や医療技術の力に頼りましょう。
フィナステリドは5αリダクターゼの反応阻害が目的、自毛植毛は男性ホルモンレセプターを持たない部分の髪の毛を患部に移植するのが目的となります。
どちらが有効なのかは本人次第ですが、人類の科学力は決して遺伝にも負けません!諦める前に、チャレンジしてみるのもいいのではないでしょうか。
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